日本ルーテル教団の月刊新聞「教会だより」の図書紹介を書くように依頼されました。「教会だより」の読者はほとんど信徒だと思うので、加藤隆氏の『一神教の誕生』講談社現代新書にしようかと迷ったすえに、発行は少し前の本ですが、わたしが好印象をもっているものについて書きました。字数は600字以内ということで、うまく内容を紹介しきれていませんが、編集部に届けた本文を以下に載せておきます。
初代キリスト教の歴史を中心に、その背景となるローマとユダヤの歴史も書き添えられた本です。ユダヤ教からキリスト教が誕生する次第や新約の各文書の書かれる事情が鮮やかに描き出されて、目が開かれる思いがするでしょう。
イエスさまの活動の背景となる紀元前三〇年頃から新約の全二七文書が出そろう紀元後二〇〇年までを五つに時代区分し、さらに各時代はローマ世界、ユダヤ周辺、キリスト教に三分して書かれています。キリスト教の歴史だけを通して読むこともできます。佐藤先生は西暦七〇年以前を通称の「原始キリスト教」と呼ばず、「ユダヤ教イエス派」と名付けたのは画期的です。
聖書個所がちゃんと記されているので自分で確認できます。地図と年表と人名索引もとても便利です。読み易い文章ですし、分量も文庫版で本文二三〇頁と手頃ですから、歴史が苦手という人も少しの我慢で十分に報われる内容です。ただし、これはキリスト教の成立過程を歴史的に理解しようとする聖書入門書であって、各文書の信仰内容を説くことを目的とする信仰入門書とは趣旨が異なります。その点はご承知ください。
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