Sola Gratia

浅見雅一・安廷苑『韓国とキリスト教』

私の所属する教団で、韓国から牧師を招くことが決まっており、三年に一度の全国教職者会を間近にひかえていました。これをどう受けとめるかが話題となるであろうと予想して、付け焼刃ですが会合の前に、韓国のキリスト教事情をある程度知っておかねばと考えて、この本を急ぎ購入しました。203ページの新書ですから、数日で読み通せました。しかし、会合では韓国の牧師をどう受け入れるかは話題として取り上げられませんでした。

著者の専門は二人とも、日本と中国における前近代のカトリックの歴史です。また、安氏は韓国人キリスト者です。全編を共同執筆したということですが、日本人には分かり易い紹介になっていると思いました。

全編は五章で構成されており、第一章 キリスト教会の存在感、第二章 キリスト教の伝播と朝鮮西学(歴史・上)、第三章 近代化とプロテスタント(歴史・下)、第四章 キリスト教受容の要因、第五章 韓国キリスト教の問題と展望、という章立てになっています。

第四章では、韓国社会にキリスト教が深く浸透した要因として、四点を挙げています。① 韓国の原信仰が一神教的要素を持っていたことが、キリスト教受容の下地となった。② 朝鮮王朝の朱子学の理気二元論は、キリスト教の世界観に類似する点があった。③ 儒教の倫理を重視する姿勢が、キリスト教の倫理への接近を容易にした。④ 植民地時代にキリスト教が抗日独立運動の精神的支柱となった。こうして、独立という政治目標と民族的苦難からの救いが、キリスト教の選民思想と結びつくことによって民族意識を覚醒させ、キリスト教が韓国の民族宗教としての色彩を帯びて行った。このように解き明かしています。私自身は韓国のキリスト教に直に触れる機会はわずかで、この解明の的確さを体感として分かる訳ではありませんが、合理的であると受けとめました。この章に限らず、著者たちの客観的な書き方に好感を持ちました。

そのほか、この本では、韓国のキリスト教信仰の特徴とか、カトリック教会の動向とか、今後の課題とかにも章が割かれています。また、韓国のキリスト教の歴史が簡潔にまとめられています。韓国のキリスト教の全景をコンパクトに俯瞰できる良書だと思いました。


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