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ヤコブ原福音書

ヤコブ原福音書 Proto-Evangelium of James

この書は福音書という名が付いていますが、聖書には含まれない外典です。副題に「いとも聖なる、神の母にして永遠の処女なるマリアの誕生の物語」とあるとおり、マリアの誕生やイエスの出産について詳しく書かれています。八木誠一氏によるギリシャ語原文からの翻訳(一部省略があります)が「新約聖書外典」荒井献編/講談社文芸文庫/1600円に収録されていて、容易に入手できます。その解説によると、その頃に作られたマリア伝説が二世紀末に文書にまとめられたもので、初期キリスト教文学の代表的なものであって、歴史のマリアを知るための史料とはなりえないが、マリア崇拝の原型を提供している史料として重要なものだそうです。

この物語はあまり知られていないと思いますので、以下に概略を紹介します。

マリア Mary の両親はヨアキム Joachim とアンナ Anna といい、裕福だったが子供に恵まれなかった。ヨアキムもアンナも一生懸命に祈って、断食したところ、天使から神が子供を授けると知らされた。アンナは喜び、子供が産まれたら一生神に奉仕するためにその子をささげると約束した(4:1, サムエル記上1章にある預言者サムエルの誕生の話に非常に似ている。4:4, 『黄金伝説』によると、アンナはヨアキムと接吻をしただけで妊娠した)。

生まれた女の子はマリアと呼ばれ(5:2)、3歳までとても大事に家の中で育てられた(7:1,2)。そして神殿に連れて行かれ、一生神に奉仕するためにささげられた(著者は神殿の習慣に通じていない非ユダヤ人であろう)。マリアは毎日神殿の中にとどまって神を賛美し、天使から食べ物を受けていた(8: 1)。12歳になった時、祭司たちはマリアが神殿を月経で汚すことがないように、処女のままに守ってくれる正しい男性を探して結婚させることを決めた(8:2)。妻を亡くした男性がたくさん集められ、神がしるしを示した男がマリアの夫になることになった(8:3)。大勢の後にヨセフ Joseph が前に進み、祭司が差し出した棒を手に取ると、その棒から鳩が飛び出した(9:1)。こうしてヨセフはマリアの夫になって、処女を保護するために神から選ばれた人だと祭司たちがわかった(9:2,3, マリアは男やもめヨセフの後妻となるが、それは法的なだけで処女のままである)。

マリアは大工のヨセフと彼の前の妻から生まれた子供達と暮らした(9:2, しかしマルコ3:31では弟と妹)。神殿のために垂れ幕を頼まれて毎日編んでいた(10:1,2, 神殿で布を織るマリアの絵はここに由来する)。

ある日、井戸に水を汲みに行った時に天使が現れて、救い主の母になることを告げた(11:1,2,3)。親戚のエリサベトを訪問した後に妊娠したことが分かって、ヨセフは非常に苦しんだ。マリアが他の男に汚されて自分は彼女を守れなかったと思ったからだ(13:1,2,3)。この事件で祭司たちもヨセフを責めて、彼とマリアは神の裁きを受けることになった(15:2,3,4)。毒の入った水を飲まされて、彼らが自称するように罪がなければ死なないはずだ(16:1)。二人とも毒水を飲んでも害を受けなかったので、祭司たちはこれが神の業だと理解し、神に感謝をささげて二人を返した(16:2,3, 20:1)。

そしてついに、住民登録の旅の途中のベツレヘム近郊の洞窟で、マリアはイエス Jesus を産む(19:2, 洞窟の聖母の絵のもとである)。産婆の証言を疑うサロメ Salome は、指を入れてマリアの処女性を確認する(20:1)。

翻訳はここまでで、続く21から25まで、東方の博士たちの来訪やヘロデ Herod による幼児殺害などは省略されています。


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