伝統的には11月1日が全聖徒の祝日ですが、わたしたちは11月の第一日曜に移して祝い、主に召された兄弟姉妹を覚えて、神に感謝を捧げます。
この祝日の歴史は非常に古く、1世紀末以降多くの殉教者が出るなかで、教会ごとに聖人を記念して死んだ日にその人の名を付けて礼拝をしていたことに始まります。次第に隣の教区と聖遺物を分け合うなどして、記念日を増やし共通化していき、4世紀にキリスト教がローマ帝国の国教になると、東方教会では、すべての殉教者たちを復活節中のある日、あるいは聖霊降臨後の最初の主日に記念するようになりました。東方教会ではいまでも聖霊降臨後の最初の主日に守っています。
西方教会(ローマ)では、その日は定まりませんでしたが、教皇ボニファチウス4世が、かつてはローマ人の神々の像がまつられていたパンテオンを聖堂に改装し、諸聖人の聖像を安置し、また聖人や殉教者などの遺骨も地下墓地カタコンべから移して、609年5月13日に奉献式を行い、毎年「すべての聖殉教者」を記念することを命じました。その後、聖グレゴリウス3世(在位731~741)が聖ペトロ寺院内に諸聖人の遺物をまつった小礼拝堂を11月1日に献堂したのをきっかけに、グレゴリウス4世が837年に日付を5月13日から11月1日に、名前も「全聖人の日」と変更して、全教会が祝うように拡大しました。名前の変更は「聖人」の定義が「殉教者」から「功績をたくさん積み、それを分け与えてくれる人」と変化したことによるでしょう。そして15世紀に、教皇シクストゥス4世が、11月1日を天国に召されていながら、特別な祝祭日や記念日を定めて祝っていないすべての殉教者・聖人のための祭日として祝うように命じ、今日に至っています。
これは大祝日であり、はじめから前晩(10月31日)にも礼拝がもたれていたようです。これは後にハロウィーンとして知られるようになります。マルチン・ルターはこの祝いに集まる人々に読ませるために、1517年10月31日に95か条の提題を教会の門に貼り出したといわれています。1668年にザクセン王はこの日を毎年祝われるべき宗教改革記念日と定めました。わたしたちは10月の最後の日曜に移して祝っています。
ところで、カトリック教会では11月1日が「諸聖人の記念日」または万聖節なのに対し、翌日11月2日は「諸死者の記念日」または万霊節と呼ばれます。煉獄にいるすべての信徒を記念する日であり、死者が早く天国に行けるよう祈る日です。これは、もとは諸聖人の日とは関係なく始まったものですが、998年に、クリュニー大修道院の第5代院長オディロンが、諸聖人の祭日(11月1日)の晩の祈りの後、鐘を鳴らしてその修道院の死者のための祈りを行い、翌日(11月2日)に、死者のためのミサをささげさせたことに由来していると言われています。この死者の日の習慣は、13世紀から14世紀にはローマの教会をはじめ、西方教会全体にまで広がっていたようです。このように、根本的には死者の日は諸聖人の大祝日とは別の祝日なのですが、しかし実際には、諸聖人の大祝日と死者の日は一緒に祝われています。この2つの日はキリスト教の祝祭日ですが、ヨーロッパでは多くの国で国民の休日になっており、無宗教の人にとっても死者の日を記念するものです。お墓参りをして菊の花が供えられます。なお、「レクイエム」(死者のためのミサ)は、この日と葬儀の時に用いられるのがふさわしいものです。
聖人の記念と死者の記念が別々のものであることは、東方教会でも同じで、聖人の記念が聖霊降臨後の最初の主日であることは最初に書きましたが、死者の記念はセクサゲシマ(復活祭の60日前に近い日曜日)の前日の土曜日に守られています。「レントについての雑学」に書いたように、東方教会(正教 orthodox church)はユリウス暦を使い、西方教会(ローマ・カトリック教会とプロテスタント教会)はグレゴリウス暦を使うために、復活祭の日付がずれますので、これらの日付もずれます。東方教会の「死者の記念日」は2003年は3月1日(土)でした。
キリスト者は共通してこの日を祝いますが、その意味づけが教派によって異なります。カトリック教会、正教会、一部の聖公会では、この日、天の栄光のうちにある諸聖人たちを思い起こし、その取り次ぎを願うことによって、地上で旅を続けている教会の信者たちが永遠の命への希望のうちに生きるよう励ますのです。ルーテル教会では聖徒の理解が異なりますから、この日は、生きている者も死んだ者も含めたすべての聖徒のために神を思い起こし感謝します。つまり、その聖い生涯と死によって、洗礼と信仰を通して信徒を聖められたイエス・キリストに栄光を帰する日となります。この点に主日に移してまでも守る意義があります。
典礼色は白がふさわしいです。神の聖徒は「その衣が小羊の血で洗って白くされた」者たちですから(ヨハネの黙示7:14)。礼拝では、使徒信条の「聖徒の交わり」という言葉や、聖餐序詞の終わりの「永遠の讃美を天にある天使[と聖徒]の群れと共に声を合わせて歌います」という言葉に留意しましょう。聖餐式にふさわしい日です。またとくに洗礼の執行にふさわしい日です。洗礼によって新しい聖徒が誕生するのだからです。
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