44イエスは言われた。「わたしについてモーセの律法と預言者の書と詩編に書いてある事柄は、必ずすべて実現する。これこそ、まだあなたがたと一緒にいたころ、言っておいたことである。」 45そしてイエスは、聖書を悟らせるために彼らの心の目を開いて、 46言われた。「次のように書いてある。『メシアは苦しみを受け、三日目に死者の中から復活する。 47また、罪の赦しを得させる悔い改めが、その名によってあらゆる国の人々に宣べ伝えられる』と。エルサレムから始めて、 48あなたがたはこれらのことの証人となる。 49わたしは、父が約束されたものをあなたがたに送る。高い所からの力に覆われるまでは、都にとどまっていなさい。」
50イエスは、そこから彼らをベタニアの辺りまで連れて行き、手を上げて祝福された。 51そして、祝福しながら彼らを離れ、天に上げられた。 52彼らはイエスを伏し拝んだ後、大喜びでエルサレムに帰り、 53絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえていた。
復活したイエスさまは弟子たちに現れて、こう語りました。《わたしについてモーセの律法と預言者の書と詩編に書いてある事柄は、必ずすべて実現する。これこそ、まだあなたがたと一緒にいたころ、言っておいたことである》
(44)。「まだあなたがたと一緒にいたころ」とは、イエスさまが十字架につけられる前、弟子たちがイエスさまに従って共に歩んでいたころ、ということです。しかし、復活したイエスさまとの交わりは、十字架の前後で変化しています。さらに、イエスさまは、《彼らを離れ、天に上げられた》
(51)とあるように、天に上げられます。これが「昇天」という出来事です。「昇天」は死んだという意味ではありません。体をもって復活したイエスさまが、その体のまま地上を離れて天に上げられたのです。
復活から昇天までの間、イエスさまは繰り返し、目に見える姿で弟子たちの前に現れました。しかし昇天以後はもう、この地上でイエスさまと会うことはなくなったのです。イエスさまの復活から昇天までの間は《四十日》
(使徒言行録1章3)でした。その四十日は、「まだあなたがたと一緒にいたころ」と言われている十字架以前の時代から、イエスさまの姿を目で見ることができない昇天以後の時代への、いわば移行期間です。その間、イエスさまは復活した姿を現しました。しかしそれは、ずっと一緒にいるのではなく、一時現れては見えなくなるという現れ方でした。復活の後、イエスさまはこのような段階を踏んで、新しい時代への備えを弟子たちに与えていたのです。
先ほど読んだ《わたしについてモーセの律法と預言者の書と詩編に書いてある事柄は、必ずすべて実現する》
(44)というみ言葉も、弟子たちに備えをさせるために語られているのです。「モーセの律法と預言者の書と詩編」とは、旧約聖書の三つの部分で、旧約聖書全体を指しています。その旧約聖書全体の「わたしについて書いてある事柄」が今実現し、これからさらに実現していく、と言うのです。「わたしについて書いてある事柄」は、このように要約されています。《次のように書いてある。『メシアは苦しみを受け、三日目に死者の中から復活する。また、罪の赦しを得させる悔い改めが、その名によってあらゆる国の人々に宣べ伝えられる』と》
(46-47)。
主なる神から遣わされる救い主（メシア）が、苦しみを受けて殺され、三日目に死者の中から復活すること、これらが神のみ心であることを、旧約聖書は語っています。その預言がイエスさまの十字架の死と復活によって、まさに今実現ました。そして、これから実現していくみ心は、「罪の赦しを得させる悔い改め」が、「その名」つまりイエス・キリストのみ名によって「あらゆる国の人々に宣べ伝えられる」ことです。イエスさまの十字架の死と復活によって神による救いのみ業が実現しました。悔い改めてイエスさまを信じる者には罪の赦しが与えられ、その救いの知らせである福音が、全世界に宣べ伝えられていくのです。これら一連の神のみ心が聖書に示されており、このみ心は必ず実現していくのだ、とイエスさまは語ったのです。
そして、《あなたがたはこれらのことの証人となる》
(48)とあります。あなたがたによって、罪の赦しを得させる悔い改めが、全世界に宣べ伝えられていく。聖書に語られている神のみ心はあなたがたを通して実現していく、ということです。
これらのみ言葉は、イエスさまの昇天後の新しい時代を生きていく弟子たちに、信仰の目で何を見つめたらよいのかを教え示し、励ましを与えています。この肉の目で見ることなしに主イエスを信じ、見えない主イエスと共に歩まなければならない、現在の私たちへの示唆でもあります。肉の目でイエスさまを見ることのできない私たちが、信仰の目で見つめるべきこと、それは、イエスさまが肉体をもってこの世に来られ、十字架にかかって死なれ、復活されたことによって、私たち人間のための神の救いのみ業が成し遂げられたということです。その救いのみ業をなし終えたイエスさまは天に昇り、肉の目には見えなくなります。その昇天の後の時代を生きる信仰者は、見えないイエスさまを救い主と信じ、そのイエスさまの名によって与えられた、罪の赦しを得させる悔い改めを自分自身もなしつつ、その救いの証人として歩むのです。主の昇天以後の新しい時代を生きていく弟子たち、つまり私たちの歩むべき道は、そこにこそあるのです。
今日の箇所で、目に見えないイエスさまを信じて生きていく新しい時代に備えさせるために、イエスさまは弟子たちに聖書を説き明かしました。聖書が説き明かされることによって、イエスさまをこの肉の目で見ることのない私たちにも、信仰が、すなわち罪の赦しを得させる悔い改めが与えられるのです。しかし、聖書に書かれた内容を知識として得ても、それがすなわち信仰ではなく、罪の赦しを得させる悔い改めに至ることはできません。聖書を本当に悟ることが、必要なのです。《そしてイエスは聖書を悟らせるために彼らの心の目を開いて》
(45)とあります。復活したイエスさまは弟子たちに、ただ聖書を説明し、ご自分について書かれていることを教えただけではありません。聖書の知識だけでは、それが自分に与えられている救いであること、イエスさまがこの私の救い主であることが分からないのです。イエスさまの十字架の死と復活によって、この私の救いが実現したということが分かること、それこそが、聖書が本当に分かるということです。本当に分かるためには私たちは、心の目を開かれなければなりません。
私たちの心の目を開くのは、聖霊です。《わたしは、父が約束されたものをあなたがたに送る。高い所からの力に覆われるまでは、都にとどまっていなさい》
(49)とあります。これは、使徒言行録第2章の五旬祭(ペンテコステ)の出来事、弟子たちに聖霊が降り、彼らが神の力に満たされて、イエスさまの証人として語り始めた、それによって教会が誕生したことを前もって示す言葉です。目に見えないイエスさまを信じて生きるという新しい時代に、信仰者と共にあり、その歩みを支え導くのは、聖霊なる神です。わたしがその聖霊を送るから、エルサレムの都に留まって待っていなさい、とイエスさまは語ったのです。この約束の実現である聖霊降臨の出来事によって誕生した教会の礼拝に、私たちは連なっています。「聖書を悟らせるために彼らの心の目を開いて」ということが私たちにも起こるのは、礼拝において、聖霊なる神が働いてくださることによるのです。
そして50節以下に、イエスさまが天に上げられたこと、昇天が語られています。イエスさまは両手を上げて弟子たちを祝福しながら彼らを離れ、天に上げられました。目に見える姿においては弟子たちを離れていくイエスさまですが、彼らに祝福を与えつつ離れて行かれました。このことは、目に見えない方となられたイエスさまがいつも彼らを祝福していてくださる、ということを示しています。
そしてそれゆえに、《彼らはイエスを伏し拝んだ後、大喜びでエルサレムに帰り、絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえていた》
(52-53)のです。目に見える姿ではもう共にいられなくなったのに、彼らは「大喜び」しました。それは、イエスさまがいつでも祝福していてくださること、恵みの言葉、救いの言葉を語りかけていてくださることを確信したからです。その大きな喜びの中で、彼らは神をほめたたえていました。彼らは神に向かって感謝と賛美の言葉を、そして罪の赦しを得させる悔い改めの言葉を語りつつ、聖霊を与えられることを待ったのです。
この恵みの中で私たちも今、礼拝において聖書のみ言葉の説き明かしを受け、聖霊の働きによって心を燃やされつつ(24章13-35「エマオで現れる」参照)、目に見えないイエスさまを信じ、その祝福にあずかり、そしてイエスさまの父である神に喜びと賛美と感謝の言葉を語りつつ生きることができるのです。
祈りましょう。天の父なる神さま。御子は私たちを救う務めを成し遂げて御許に戻りましたが、あなたは代わりに聖霊を送って、私たちを助け導いてくださいます。共に礼拝に集う私たちの心を開き、燃やし、御心に従って歩む者としてください。救い主、イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン
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