Sola Gratia

セルバンテス『ドン・キホーテ』

セルバンテスは、16世紀のカトリック大帝国スペインの全盛期に成長し、帝国が衰退するのに合わせて彼自身も落ちぶれ老齢となり、この小説『ドン・キホーテ』を書きました。セルバンテスはエラスムスに学ぶヒューマニスト、寛容主義者であり、帝国と自分の姿を相対化して見るのですが、検閲のきびしい時代でしたから、騎士道物語の形でイロニ―やユーモアにくるんで風刺した、と言って良いと思います。

ラ・マンチャ地方の郷士(下級貴族)のアロンソ・キハーノは騎士道物語にのめり込むあまり気が狂い、時代錯誤にも自ら遍歴の騎士ドン・キホーテになりきってしまいました。そして近所に住む百姓のサンチョ・パンサを口説いて従者として旅に誘い出します。そしてバルセローナで学士ドン・カラスコ扮する「銀月の騎士」に破れて、約束のとおり帰郷すると、間もなく病死する。これが小説の大筋です。

私が読んだ少年文庫版は、岩波文庫版の訳者自身による編集による簡略版です。名の売れた小説ですが、大人になって読んだことがなかったので、一度は読んでみたい、しかし、大冊を読破するほどの気はない。ということで、訳者自身の編集による抄訳本で本物の味を少し味わうことができればそれで良しと考えました。また、この本を通して、反宗教改革時代のスペインの様子を感じとることも目的でした。

少年文庫版は岩波文庫版からの抜粋で、訳自体は岩波文庫版そのものです。少年文庫版は、原作の6分の1に圧縮されています。この編集には翻訳と同じくらいの時間を要した、と編訳者は書いています。本筋からはずれた挿話を省き、前編と後編を合わせて三回の旅を一回にまとめて、おもしろいと思われる章が抽出されています。

翻訳臭はまったく感じられません。訳文がスムーズで、まるで江戸時代の戯作を読んでいるような感じ、または講談を聞いているようで、テンポがよく、楽しく読み進めることができました。ドン・キホーテとサンチョの会話は面白く、味があり、彼らが好きになりました。キホーテの志はいさぎよく、サンチョの知恵と情と欲は憎めません。

この本で息抜きができましたので、ふたたびスペイン・ポルトガルにおけるユダヤ人迫害の歴史を読むことに戻れます。


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